ユン・チアン著「マオ」に続き「ワイルドスワン」を読んだ。涙が出るほど感動した。
20世紀初頭清王朝末期から70年代の終わりまで3世代に亘り、舞台は満州からヒマラヤ東端四川省の奥地に至る壮大な大河ドラマだ。
物語の中心は1966年から始まる文化大革命だ。今中国に住む私より年上の世代の人は例外なくこの狂気の時代を体験した。
やさしすぎること、「ありがとう」の言葉がブルジョワ的だと非難された時代だ。「まず破壊せよ建設はそこから生まれる」の号令のもと最も洗脳されやすい学生たちから火がついた。学校の教師に始まり知識人、文化人、医者、俳優などあらゆる階層の人々が暴徒の標的となった。外部からなんの情報も入らず、ジャーナリズムなども存在せず9億の民が毛沢東を妄信し突き進んだ。
毛沢東の思想の根幹は「闘争」と「無知の礼賛」だった。人と人との闘争こそが歴史を前進させる力であり、互いに憎しみあうことで統治した。人民そのものを独裁の武器にした。
金正日の北朝鮮は拉致問題、核問題以降とくに日本のメディアはウオッチしているが、毛沢東の中国になにが起きているのか世界中の誰も知らなかった。中国の民衆も自らの苦痛は体験しても全体でなにが起きているのかまったく分かっていなかったのだ。
今月NHKは中国の特集月間ということでさまざまな番組をやっている。その中で実にタイムリーに「毛沢東」というドキュメンタリーをやっていた。フランスのテレビ局の制作したものだが、毛沢東、周恩来、林彪の肉声に天安門広場を埋め尽くす数十万の紅衛兵が小紅書を掲げ熱狂する姿はまさに集団ヒステリーだ。
先日温家宝総理閣下が来日し「氷を溶かす旅」と仰っていた。
反日とこぶしを振り上げる改革解放世代の若者、「日本は歴史を学んでいない。」と叫ぶが彼らは自国の暗黒の歴史をどれほど知っているのだろうか。「ワイルドスワン」が読まれることがタブーであるならばこの国の氷が溶けるにはまだ時間がかかる。
それにしてもユン・チアンの観察力、記憶力、文章力。バランス感覚を失わず暗黒の時代を生き延びた人間力に本当に敬服します。